急性心不全もしくは慢性心不全の急性増悪による肺水腫の発症機序は,肺毛細管圧,血漿膠質浸透圧(colloid osmotic pressure; COP),肺間質静
水圧,肺間質COP,肺毛細管血管透過性,肺胞内圧,肺胞表面張力,リンパドレナージ(Qlyp)などの要因が関連する.肺毛細管と肺間質スペース間の
血漿流量(Q)は以下のスターリングの式で表現される.

Q=K{( 肺毛細管圧-間質静水圧)-δ( 血漿COP-間質COP)-Qlyp }

 正常状態では肺間質静水圧は陰圧なので,血漿COPと肺胞内圧,肺胞表面活性物質のみが血漿成分を血管内に保持するよう作用している.
急性左心不全では肺毛細管圧が上昇し,高度の肺うっ血,あるいは肺水腫をきたす.血漿蛋白濃度が正常な場合には肺毛細管圧が24 mmHg以上にな
ると,肺胞への血漿成分漏出が出現し,以後圧上昇とともに直線的に肺水腫は増悪する.しかし,血漿蛋白濃度が正常の半分まで低下すると,肺毛細管
圧11 mmHgのレベルから肺水腫が発症する754).肺水腫では直面する呼吸困難と低酸素血症,末梢組織への酸素運搬(oxygen transport:心拍出量×
動脈血酸素含有量[1.34×Hb×SaO2])を改善することが急務となる.
5.1.1 肺水腫の病態と酸素療法
急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)
Guidelines for Diagnosis and Treatment of Acute and Chronic Heart Failure
(JCS 2017/JHFS 2017)
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