1. 気管挿管を要する,あるいはすでに挿管
2. 収縮期血圧が90 mmHg未満,あるいは平均動脈圧が
65 mmHg未満を満たす低血圧,ショック
3. 酸素投与しても酸素飽和度<90%
4. 努力性呼吸で呼吸数が>25/分
5. 危険な不整脈の制御困難
急性心不全
安定
急性冠症候群
並行して
基礎心疾患診断・特殊病態把握心不全病態・治療効果の再評価治療の
修を図る
基礎心疾患診断特殊病態治療再評価次の60分以内
迅速評価次の60分以内10分以内四肢冷感・血圧
心拍数・呼吸数SpO2・体温うっ血・末梢低灌流評価(Nohria-Stevenson分
類)必要に応じて心エコー図心電図などの再検
うっ血・末梢低灌流評価血液検査(BNP/NT-proBNP)12誘導心電図
心エコー図肺エコー図胸部X線(胸部CT検査)
トリアージ四肢冷感・血圧心拍数・呼吸数SpO2・体温
心電図モニター病態評価(クリニカルシナリオ分類)MR.CHAMPH
MyocarditisRight-sided heart failureacute Coronary syndrome
Hypertensive emergency
Arrhythmia
acute Mechanical cause
acute Pulmonary thromboembolism
High output heart failure
なし
あり
一般病棟
退院
緊急CAG/PCI
なし
あり
不安定
末梢低灌流(乳酸値>2 mmol/Lを参考)
SBP<90 mmHg あるいはMBP<65 mmHg
心原性ショック・ 低灌流性心不全
補液
強心薬
IABP
ECMO
ICU
CCU
血管拡張薬
±
利尿薬
酸素吸入
NPPV
気管挿管
血行動態
呼吸不全
心不全改善
1. 患者の救命と生命徴候の安定化
2. 血行動態の改善と酸素化の維持
3. 呼吸困難などのうっ血症状・徴候の改善
4. 急性心不全の診断と急性冠症候群や肺血栓塞栓症の除外
5. 心臓のみならず他臓器障害の進展予防
6. 早期介入・早期改善によるICU/CCU滞在期間の短縮
急性心不全は急性非代償性心不全(acute decompensated heart failure; ADHF)ともよばれ,急速に心原性ショックや心肺停止に移行する可能性
のある逼迫した状態である.最寄りの冠動脈疾患集中治療室(coronary care unit; CCU)あるいは集中治療室(intensive care unit; ICU)を完備した
高度な循環器診療ができる病院に搬送することが望ましい.
患者搬入後の初期対応の目的は,表52のとおりである.そのためには,最近提唱されている臨床ガイダンスを参考に作成したフローチャート(図11)
705)に準じて早期に治療介入し,循環動態と呼吸状態の安定化を図る必要がある.同時に,急性心不全の診断を的確に行う.その際に,できるだけ早期
に心不全入院歴,治療歴,既往歴,安定期のバイタル,心機能などの患者背景情報の収集を行う.可及的すみやかに心エコーを行うことでより的確な診
断および病態把握が可能となる.また,肺水腫の鑑別診断において肺エコーによるBラインの感度は94.1%,特異度は92.4%であることが示されてお
り,胸水の貯留も含めて可及的すみやかに行い,診断の一助とする704).急性心不全の診断とともにCS分類および病態分類に準じて治療方針を決定す
る.同時に,急性心不全に陥った原因を診断することを絶えず念頭に置くことが重要である.原因に対する治療こそが生命予後の改善につながるからで
ある.
酸素投与,呼吸管理については,呼吸不全の原因として肺水腫あるいは慢性閉塞性肺疾患(COPD)を合併する場合は,静脈血pH,CO2,乳酸の測
定を行う(表53).心原性ショックでは,動脈血ガス分析を施行する.急性心不全で経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)<90%または動脈血酸素分圧
(PaO2)<60 mmHgの患者に対しては酸素投与を行い,呼吸困難の改善が認められない(呼吸回数>25回/分,SpO2<90%)場合はすみやかに陽圧
呼吸を導入し,改善を図る.それでも改善を認めない場合は気管挿管が推奨される.
入院後すぐに,バイタルチェックとともに循環・呼吸動態を監視するモニターを装着し,末梢循環や臓器灌流が保たれているかチェックする(図11)705).
酸素飽和度,血圧,体温,呼吸数の計測と心電図モニターは必須である.尿量モニターは必要であるが,必ずしも尿道カテーテルを留置する必要はな
い.
病院到着時に心肺停止状態である場合には二次救命処置(advanced cardiac life support; ACLS)に準じた救命処置を行う705).初期対応として心原
性ショックの有無と呼吸不全の有無を見極めて,適切に対応する.強心薬に反応しないショックあるいは循環動態が不安定な患者あるいは重症呼吸不
全が改善しない患者では,呼吸や循環サポートができるCCU/ICUへの移送あるいはより高次施設への紹介や転院をすみやかに行うことも重要である.
ここで重要なことは急性冠症候群(acute coronary syndrome; ACS),急性肺血栓塞栓症などの特殊病態の除外である.それぞれ診断がつき次第,
該当するガイドラインを参考にすみやかに対応する.それ以外の原因疾患に対する特異的治療が必要な患者も,その治療のための高次施設への転院
は躊躇してはならない(図11).
CCU/ICUの適応は,表54のような症例である.その他の患者は一般病棟での管理も可能であるが,低心機能である場合は十分なモニタリングを行い
ながら対応する必要がある.急性心不全で緊急外来に来院した患者でも,うっ血が軽度で酸素投与や血管拡張薬,利尿薬の少量投与により症状が安
定化すれば,そのまま帰宅させ,直近の外来でフォローすることも可能である.
特殊な病態に対する対応について,下記にまとめた.
1) 心筋炎(Myocarditis):劇症型心筋炎の可能性を常に念頭に置き,心電図,心臓超音波などにより経過観察を行う.劇症型であっても早期治療を
行い,対応を迅速にすれば予後改善は可能であることも多い.適宜,人工心臓を含む補助循環装置を使用する.詳細については,急性および慢性心
筋炎の診断・治療に関するガイドライン706)を参照のこと.
2) 右心不全(Right-sided heart failure):右心不全に至った原因を同定し,それに合わせた治療戦略を選択することが重要である.肺動脈性肺高
血圧症と診断された場合,重症であればプロスタサイクリン系静注薬を中心に,必要があれば3系統の肺高血圧治療薬の導入あるいは増量を考慮す
る.その際,心拍出量維持および改善のために必要に応じてドブタミンなどを併用する.収縮性心膜炎などの心疾患による右心不全も鑑別を要する.
3) 急性冠症候群(acute Coronary syndrome):診断と治療は,ST上昇型急性心筋梗塞の診療に関するガイドライン715)および非ST上昇型急性冠
症候群の診療に関するガイドライン716)に準じて行うが,急性心不全を合併するACS患者は生命予後が不良であるため,迅速な冠動脈造影とPCIを行
う.
4) 高血圧緊急症(Hypertensive emergency):血管拡張薬の静注によるすみやかな降圧が必要である.全身的な体液貯留を伴う場合は利尿薬を
併用する.
5) 不整脈(Arrhythmia):心室頻拍などの頻脈性不整脈が原因の場合にはアミオダロンの静注あるいは直流除細動が必要となる.高度の徐脈が急
性心不全の原因であれば体外式ペースメーカを挿入する.繰り返す心室不整脈が急性心不全を悪化させる場合には,冠動脈造影などの原因精査ととも
に緊急アブレーションが必要な場合もある.
6) 機械的合併症(acute Mechanical cause):ACSに合併する自由壁破裂,心室中隔穿孔,乳頭筋断裂,冠動脈閉塞や穿孔などのPCI合併症,
急性大動脈解離,感染性心内膜炎や機械弁における弁機能不全,胸部外傷などがある.診断には心エコー法が必須であり,緊急手術が必要なことが
多い.
7) 急性肺血栓塞栓症(acute Pulmonary thromboembolism):診断・治療は肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断,治療,予防に関する
ガイドライン706a)に準じて行う.血行動態が破綻した患者では,血栓溶解療法,カテーテルによる血栓吸引,体外式補助循環や外科的血栓除去術が必
要な場合もある.
8) 高拍出性心不全(High output heart failure):原因疾患として敗血症,甲状腺中毒症,貧血,短絡性心疾患,脚気心,パジェット病などがある.
まずは病態を評価し,原因疾患を診断し,それに対する治療を優先する.原因疾患の治療をしても病態が改善しない場合には,ほかに基礎疾患がない
か検索することも重要である.
図11 急性心不全に対する初期対応から急性期対応のフローチャート
(Mebazaa A, et al. 2016 705) を参考に作図)
表53 急性心不全患者に対する酸素投与,呼吸管理の
推奨とエビデンスレベル
表54 急性心不全におけるCCU/ICU 管理の適応
急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)
Guidelines for Diagnosis and Treatment of Acute and Chronic Heart Failure
(JCS 2017/JHFS 2017)