急性心不全における心臓リハビリテーションの目的は,
1) 早期離床による過剰な安静の弊害(身体的・精神的デコンディショニング,褥瘡,肺塞栓症など)の防止
2) 迅速かつ安全な退院と社会復帰プランの立案・共有と,実現
3) 運動耐容能の向上によるQOLの改善
4) 患者教育と疾病管理による心不全再発や再入院の防止

である.心不全患者では,長期安静臥床による身体的・精神的デコンディショニングや廃用症候群,さらには低栄養や炎症性サイトカイン上昇による骨格
筋萎縮(心臓性悪液質[cardiac cachexia])をきたしやすいことから,急性心不全早期から理学療法・運動療法と教育・カウンセリングからなる心臓リハ
ビリテーションを導入することが重要である.

 心不全安定後には,包括的心臓リハビリテーションプログラムを開始し,退院後に外来心臓リハビリテーションに移行して疾病管理を継続することが望
ましい148)

 急性心不全に対する入院中のみの心臓リハビリテーションの長期予後改善効果は証明されていない.しかし,退院後の包括的外来心臓リハビリテー
ションプログラムでは心不全患者の再入院防止効果が示されていることから,入院中の心臓リハビリテーションでは,単に早期離床・早期退院を目指すだ
けでなく,退院後の外来心臓リハビリテーションへの参加・継続の動機づけを図る.

 また,ICUに入院した急性心不全患者は,突然の発症と緊急入院,侵襲的な救命処置,死への恐怖と将来への不安,家族と隔離された不慣れな環境
などのため,不安が強く精神的に不安定な状況にある.さらに,侵襲的処置や安静保持による身体的苦痛,清拭や排泄介助への羞恥心や精神的苦痛も
有している.したがって急性心不全急性期における精神的サポートは,患者の精神的苦痛を軽減し,入院中のQOLを高めるうえで重要である.医療ス
タッフが早期発見に努め,心理カウンセリングを行うとともに,必要に応じて薬物治療や認知行動療法を考慮する148)
5.6.1 急性心不全におけるリハビリテーションの意義
急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)
Guidelines for Diagnosis and Treatment of Acute and Chronic Heart Failure
(JCS 2017/JHFS 2017)
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