心不全の背景疾患として,冠動脈疾患は高血圧や拡張型心筋症とともに頻度が高い347).心不全の背景疾患・併存症としての冠動脈疾患の頻度は,
2000~2004年登録のCHART-1研究における23%から,2006~2010年登録のCHART-2研究では47%に増加し30, 348),急性心不全のATTEND研究
349) では31%, JCARE-CARD研究32) では32%と報告されている.また近年,LVEFが保たれた虚血性心不全が増加している31)

 CHART-1研究では心筋梗塞後の心不全患者の3年死亡率は29%であり,非虚血性心不全症例の12%にくらべて高率であった350).またATTEND研
究では,虚血性心疾患に由来する急性心不全症例の死亡率は,LVEFが40%以上に保たれた症例では他の基礎疾患に基づく症例と同等であったが,
LVEFが40%以下に低下した症例では心臓弁膜症に基づく症例と並び高かった351).CHART研究に登録されたNYHA心機能分類II度以上の症状を有す
る虚血性心不全症例の3年死亡率は,CHART-1 からCHART-2 にかけて29%から15%に改善している31)

 心筋虚血は収縮機能と拡張機能の双方を障害し,心筋梗塞による心筋傷害は心室機能不全の原因となる.心筋虚血や心筋障害に伴う不整脈の出
現はときに致死的であり,また血行動態を破綻させる.また,生活習慣病など冠危険因子の合併は,動脈硬化や心機能障害と関連するため注意が必
要である.すなわち虚血性心不全の治療においては,1)心機能,2)心筋虚血,3)不整脈イベント,4)冠危険因子の管理,を念頭に置く.
4.1 病態
急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)
Guidelines for Diagnosis and Treatment of Acute and Chronic Heart Failure
(JCS 2017/JHFS 2017)
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