2 遺伝学的検査におけるインフォームド・コンセントと遺伝カウンセリング
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 日本医学会「医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドライン」9)では,遺伝学的検査を実施する際の留意点として,「すでに発症している患者を対象に行う
場合」と「その時点では,患者ではない方を対象に行われる場合(非発症保因者診断,発症前診断,出生前診断)」とを明確に分けて記載されている.

 すでに発症している患者を対象に行われる遺伝学的検査は,臨床的有用性が高いと考えられる場合に考慮され,主治医の責任で,通常診療の一環として実施する
ことが重要である.実施する際には,血縁者に影響を与える可能性を含めて遺伝学的検査の意義や目的について説明し,インフォームド・コンセントを得てから実施す
るとしている.この背景としては,臨床的に有用性が高いと考えられるのであれば,他の臨床検査と同様に,躊躇することなく実施すべきであるという理念に基づいて
いる.また,必要に応じて専門家による遺伝カウンセリングが受けられるようにする,としている.

 一方,保因者診断,発症前診断,出生前診断等,患者ではない人を対象に行われる遺伝学的検査においては,検査実施前に十分な遺伝カウンセリングが行われる
べきである.

 日本医学会「医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドライン」9)では,遺伝カウンセリングについて,下記の記載がある.

 遺伝カウンセリングは,疾患の遺伝学的関与について,その医学的影響,心理学的影響および家族への影響を人々が理解し,それに適応していくことを助けるプロ
セスである.このプロセスには,
(1 )疾患の発生および再発の可能性を評価するための家族歴および病歴の解釈
(2 )遺伝現象,検査,マネージメント,予防,資源および研究についての教育
(3 )インフォームド・チョイス(十分な情報を得た上での自律的選択),およびリスクや状況への適応を促進するためのカウンセリング等が含まれる.

 現在,我が国には,遺伝カウンセリング担当者を養成するものとして,医師を対象とした「臨床遺伝専門医制度」<http://jbmg.org/>と非医師を対象とした「認定遺
伝カウンセラー制度」<http://plaza.umin.ac.jp/ ~GC/>があり,いずれも日本人類遺伝学会と日本遺伝カウンセリング学会が共同で認定している.

 遺伝カウンセリングに関する基礎知識・技能については,すべての医師が習得しておくことが望ましい.また,遺伝学的検査・診断を実施する医師および医療機関
は,必要に応じて,専門家による遺伝カウンセリングを提供するか,または紹介する体制を整えておく必要がある.

 遺伝学的検査には様々なものがあり,診療としての意義,倫理的問題の有無,得るべきインフォームド・コンセントの内容,遺伝カウンセリングの必要性等は,検査
によって全く異なる.生殖細胞系列の遺伝子情報は生涯不変であり,血縁者に一部共有されているものでもあるため,様々な問題を考えておかなければならない.生
殖細胞系列の遺伝子変異を明らかにする遺伝学的検査の目的は多様であり,それぞれの検査における対応を十分検討した上で行う必要がある.
心臓血管疾患における遺伝学的検査と遺伝カウンセリングに関する
ガイドライン(2011年改訂版)

Guidelines for Genetic Test and Genetic Councelling in Cardiovascular Disease(JCS 2011)
 
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