3  本ガイドラインの適用範囲
Ⅰ 総論 > 1 日本循環器学会による「心臓血管疾患における遺伝学的検査と遺伝カウンセリングに関するガイドライン」の基本理念 > 3  本ガイドラインの適用範囲
 本ガイドラインの適用範囲は,診療の一環として行う遺伝学的検査であり,研究目的での遺伝学的検査については三省(文部科学省,厚生労働省,経済産業省)指
針「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」5)に従うものとする.前者(診療目的の遺伝学的検査)が実行されるのは,個々の対象者本人からの自発的な求め
がある場合,あるいは医療者側が検査の妥当性と有用性を説明し,本人がそれを理解した上で検査を受諾した場合である.得られた結果(情報)については,医療者
側は被検者とそれを共有し,医療に役立てることにのみ専念するべきである.これに対して,後者(研究目的の遺伝学的検査)が実行されるのは,従来の基礎的研究
に基づく情報が存在しない場合,または存在するものの未確定な場合であり,遺伝学的事実を新たに解明すること,もしくは確認することを主目的としている.研究目
的の遺伝学的検査では,得られた遺伝学的情報は,試料採取時の状況や検査内容により,個々の対象者にも開示されない(不可能な)場合がある.この点について
は事前に十分説明し,インフォームド・コンセントを得る過程で明示しなければならない.また試料については,連結不可能匿名化,もしくは連結可能匿名化等,我が国
の三省指針に従って慎重に取り扱うべきである.

 遺伝学的検査には,有用性が確立されているもの,有用性は確立していないがその可能性が高いと考えられるもの,またその区別がつけにくいものがある.後者は
新たな遺伝学的事実を確立させることを目的とするが,場合によっては,この検査結果が患者やその家族にとって有益な情報となる可能性も想定される.その場合
は,本ガイドラインの基本姿勢に明示した“患者の不利益を最小限にとどめ,患者の利益を最大限に尊重する”とする対応から,検査について十分な検討を行い,患者
と家族にその可能性を説明した上で,自由意思による決定を確認し,インフォームド・コンセントを取得した後に実施すべきである.

 遺伝学的検査の結果開示に際しては,「知らないでいる権利」についても配慮し,本人の意思を再確認するべきである.遺伝学的検査を企業等に委託する場合は,
提出試料を匿名化する等の一定の過程を経て,個人情報を保護することが必須である7),8).診療の一環として行う遺伝学的検査の検査費用に関しては,検査受託を
行う場合も含めて有料としても差し支えないが,研究目的の検査,ないしは有用性に関してまだ明確でないと判断される検査(例えば positive predictive valueが明確
でない)の場合は,費用の本人負担は望ましくない.
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心臓血管疾患における遺伝学的検査と遺伝カウンセリングに関する
ガイドライン(2011年改訂版)

Guidelines for Genetic Test and Genetic Councelling in Cardiovascular Disease(JCS 2011)