1.1.2 HFpEF
 これまでの臨床試験の結果,臨床上心不全症状を呈する症例の約半数がLVEFが正常,もしくは保たれた心不全であることが示されている18)
その診断基準として,さまざまなものが種々の論文により提起されているが,1)臨床的に心不全症状を呈し,2)LVEFが正常もしくは保たれて
いる,3)ドプラ心エコー法もしくは心臓カテーテル検査で左室拡張能障害が証明されている,の3点を基準として考えるのが現在では標準的である
19).本ガイドラインでは,HFrEFとの対比もあり,LVEFが50%以上と定義する.HFpEFの原因としては,心房細動などの不整脈や冠動脈疾患,
糖尿病,脂質異常症などもあげられるが,もっとも多い原因は高血圧症である20)

 しかしながら,これらのHFrEF,HFpEFという分類も完璧なものではない.三尖弁疾患や肺動脈性肺高血圧症に伴う純粋な右心不全の病態は
HFpEFと分類されることになるが,上記のHFpEFとは異なる病態であり,注意が必要である.

 また,LVEFが軽度低下している症例は収縮機能障害もある程度あるものの,実臨床上はHFpEFに近い病態を示す症例が多い.しかし,HFpEF
とは異なり,収縮機能障害に対してはHFrEF患者で十分エビデンスが確立されている治療法が,これら境界領域の患者に有効である可能性も考え
られる.そのため,諸外国のガイドラインにおいてもこれらの症例群はLVEFが軽度低下した心不全(HFmrEF),もしくはHFpEF borderlineと定義さ
れている.

 本ガイドラインにおいてはLVEFが40~49%の群をHFmrEFと定義する.この群についての臨床的特徴は十分には明らかになっておらず,
治療の選択は個々の病態に応じて判断する.

 また,心不全症状を呈した当初はLVEFが低下していたものの,治療や時間経過とともにLVEFが改善する症例群もある(HFpEF improved,
またはHF with recovered EF;HFrecEF)21).頻脈性心房細動などによる頻脈誘発性心筋症(tachycardia-induced cardiomyopathy)や虚血性心
疾患,β遮断薬で心機能が回復した拡張型心筋症などがこの症例群に該当するものと考えられ,左室収縮能,拡張能や心胸郭比(cardiothoracic
ratio; CTR),脳性(B型)ナトリウム利尿ペプチド(brain natriuretic peptide; BNP)が正常化することもある.これらの臨床的特徴や長期予後などに
ついては予後良好とする報告も散見されるが,いまだ十分な知見が得られていない.この群については今後さらなる研究が求められている.
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急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)
Guidelines for Diagnosis and Treatment of Acute and Chronic Heart Failure
(JCS 2017/JHFS 2017)