推奨
クラス
エビデンス
レベル
Minds
推奨
グレード
Minds
エビデンス
分類
食事や運動など一般的な生
活習慣の改善も含めた包括
的なアプローチ
I A A I
SGLT2阻害薬(エンパグリフ
ロジン*,カナグリフロジン**) Ⅱa A B II
チアゾリジン薬
 心不全を合併した糖尿病患者に対して,厳格な血糖管理が心血管イベントの発生に及ぼす影響については依然として議論がある595, 596)
これには,低血糖による交感神経の賦活化や炎症などを介した心血管系への悪影響が想定されている597).したがって,低血糖の発生を避けると同時
に,日本糖尿病学会の糖尿病治療ガイド220)に則したHbA1cの管理目標値を設定することが妥当であろう.米国では,心不全合併症例(妊婦を除く)に
おけるHbA1cの管理目標を7%と設定しており568),わが国の糖尿病治療ガイドにおける「糖尿病の合併症予防のための管理目標」に該当している.

 心不全合併例における具体的な糖尿病治療戦略の確固たるエビデンスはないが,食事や運動など一般的な生活習慣の改善に加えて,個別の病態
に応じてわが国の糖尿病治療ガイドに準じた糖尿病治療薬を用いた治療による包括的なアプローチが重要である.しかし,糖尿病治療薬のなかには心
不全症例に対する有害性が指摘されている薬剤もある.チアゾリジン薬は心不全症例に対して投与禁忌である598, 599).また,インスリンには尿中ナトリ
ウム排泄低下作用があることから,心不全の増悪には注意が必要である217).ビグアナイド薬に関しては,乳酸アシドーシスの発症が懸念されたことか
ら,心血管系や肺機能に高度の障害を有する患者では投与禁忌とされてきた.しかし,近年の欧米の研究で心不全を合併した糖尿病に対してビグアナ
イド薬が心不全入院率や死亡率を有意に改善することが示されたことを受け600- 604),欧米では投与禁忌が解除され,腎機能が正常な慢性心不全では
第一選択薬とされている605).しかし,欧米においても急性心不全など血行動態が不安定な心不全には禁忌であり,日本では慢性心不全患者において
有効性を示す明確なエビデンスに乏しいことから原則禁忌となっている.スルホニル尿素薬に関しては,一般に心不全合併例において有害性の報告は
ないものの,低血糖や体重増加に注意が必要である.

 米国食品医薬品局(FDA)が新規の糖尿病治療薬の承認にあたり,心血管アウトカム試験の実施を課した2008年以降,インクレチン関連薬
(ジペプチジルペプチダーゼ-4[dipeptidyl peptidase-4; DPP-4]阻害薬606- 608),グルカゴン様ペプチド-1[glucagon-like peptide-1; GLP-1]受容体作動
609-611))やナトリウム・グルコース共輸送体2(SGLT2)阻害薬225, 228)に対する大規模臨床試験の結果が近年相次いで報告されている.
対象者は心血管高リスク2型糖尿病患者であり,その一部に心不全合併例が含まれているに過ぎないが,心血管予後の改善を見据えた糖尿病治療を
行ううえで,重要な知見をもたらしている.インクレチン関連薬の大部分の心血管アウトカム試験において心不全に対する有効性および心不全リスクの増
大は認められなかったものの,SAVOR-TIMI 53( サキサグリプチン)606)では,心不全入院がサキサグリプチン投与群において有意に増加し,
NT-proBNP高値例,心不全既往例,CKD例などがそのリスク因子であった612).また,急性心不全で入院したHFrEFを対象としたFIGHT( リラグルチド)
613)においても,心不全に対する有効性および心不全リスクの有意な増大は認められなかった.

 SGLT2阻害薬に関して,エンパグリフロジン225)およびカナグリフロジン228)は心血管高リスク2型糖尿病患者の心血管死・非致死性心筋梗塞・非致死
性脳卒中からなる複合主要心血管イベントおよび心不全入院を低下させた.このような効果は,インスリン抵抗性の改善など代謝面への作用だけでは
なく,利尿作用に基づく血行動態への影響も含めた多面的な作用が想定されており614, 615),心不全合併の有無にかかわらず心血管高リスク2型糖尿病
患者に対する心血管予後の改善が期待される226, 227).しかし,これらの大規模試験における心不全合併患者の登録割合は全体の10~15%と少なく,
心不全自体に対する治療効果に関しては今後の臨床試験の結果が待たれる.さらに,これらの結果がSGLT2阻害薬全体のクラス効果であるかどうか
のエビデンスは現時点では存在しないため,同クラスの他剤を用いた大規模臨床試験の結果を待つ必要があり,2019年にダパグリフロジンの結果が公
表される予定である.また,後期高齢者などでの有効性については今後の課題である.

 以上より,心不全合併の糖尿病治療においては,低血糖を避け,糖尿病治療薬の特性や,これまでの臨床試験の結果を参考に,各病態に応じた治
療薬の選択を行う.
7.2.2 心不全合併の糖尿病治療
(表40)
表40 心不全を合併した糖尿病に対する治療の推奨とエビデンスレベル
EMPA-REG OUTCOME試験(エンパグリフロジン)225)では, 全例
が心血管病既往例であった.
**CANVAS 試験(カナグリフロジン)228)では,全体の34%が心血
管高リスク一次予防症例で, 66%が心血管病既往例であった. また同
試験では, わが国未承認用量も含まれていた.
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急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)
Guidelines for Diagnosis and Treatment of Acute and Chronic Heart Failure
(JCS 2017/JHFS 2017)