心房細動は,心不全患者にもっとも多く併発する不整脈の1つであり,心機能や血行動態に悪影響を及ぼし,さらに心不全を悪化させることが知られ
ている479).重症の慢性心不全患者に併発する心房細動に対してβ遮断薬には予後改善効果がないことが,メタ解析で明らかとなった.それに加えて,
洞調律でみられた心拍数低下に依存して予後が改善する効果は,心房細動症例では認められなかった268).一方で,急性心不全に併存する心房細動
では大規模研究が少なく,わが国からの観察研究であるCHART-2研究では,心不全患者に新規に発症した心房細動は予後不良因子であることが示
された480).これらの症例に対するβ遮断薬などによる心拍数への介入や洞調律維持療法による予後改善効果は明らかでないが,心房細動に伴う急激
な血行動態の悪化や自覚症状の増悪,またはそれが予想される場合には,適切な治療介入が必要と考えられる.一方,心房細動により脳梗塞,
全身塞栓症発症のリスクが高まるため481),心不全に合併した心房細動患者においては抗凝固療法も重要である.
心房細動自体の治療としては,心不全に心房細動をすでに合併している場合と,心不全加療中に心房細動が新規に発症した場合とで対応が異なる
が,心房細動を容認して心拍数コントロールを行う「心拍数調節療法(レートコントール)」と,洞調律に復帰させ維持を目指す「洞調律維持療法
(リズムコントロール)」とに大きく分けられる.心房細動が血行動態に与える影響は,急性心不全と慢性心不全とで異なるため,それぞれの病態に応じ
た治療法を選択する必要がある.治療の選択如何にかかわらず,甲状腺機能,電解質バランス,弁膜症,高血圧,心筋虚血,外科手術後,呼吸器疾
患などの心房細動発症や維持を助長する因子を検索し,是正可能なものに関しては適切な治療を行う16).また,肺うっ血や浮腫など体液貯留がある場
合には,体液管理を並行して行う.
急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)
Guidelines for Diagnosis and Treatment of Acute and Chronic Heart Failure
(JCS 2017/JHFS 2017)