急性心不全患者のほとんどはうっ血を主訴に入院する.うっ血症状はベースラインからの心内圧の急激なさらなる上昇とともに出現する.うっ血所見
は,左心系と右心系の2つに分けると理解しやすい.左房圧の上昇に伴い,初期は易疲労感,運動耐容能の低下などが出現する.進行すると発作性夜
間呼吸困難,さらに進行すると起座呼吸など,安静時にも症状を自覚するようになる.これは2 つの時間軸で構成される.急性のものとしては,
静脈系のvenous reservoirが大きく関わる急性肺水腫である.低酸素血症が繰り返されることや急激な後負荷の増大で,交感神経系の賦活化とともに
神経体液性因子の活性化などが相まって,血管収縮によりコンプライアンスの高いvenous reservoirから,つまり静脈系からの急激な体液再分布
(unstressedvolumeからstressed volumeへの移行とも表現される)が起こり,肺水腫をきたす.これは短時間でも起こりうる.慢性的なうっ血として,
全身的な体液貯留(溢水)がある.これは交感神経系の刺激が腎臓に対して影響を与えることで,腎臓の血管収縮をきたし,糸球体濾過量を低下させる
ことが機序の1つとして考えられる.また,神経体液性因子の亢進も加わり,刺激が長期にわたると水・ナトリウムの再吸収につながり,細胞外液量は
増加し,浮腫をきたす.臓器うっ血も病態としては想定されるが,実臨床のなかで,それを程度も含めて的確に評価する方法は確立されていない.
2.2.1 うっ血
急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)
Guidelines for Diagnosis and Treatment of Acute and Chronic Heart Failure
(JCS 2017/JHFS 2017)
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